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広い広い部屋の中には埃のかぶったアコースティックギターや所々くすんでいるグランドピアノなどが置いてあった。
その部屋の真ん中に彼はいた。
椅子に座りながらサックスを吹いていた。
その音は生きていた。
音自身が自ら歌っているかのようだ。
これは友人への歌を思わせる。
夕暮れの中、別れた親友を思っているかのよう。
青年は知らぬ間にその歌に詞を付けて歌っていた。
茜色の中に消えた 君の面影を探して僕の掌が光を掻く
君はどこ?
僕はここにいるよ
今までどおりにこの街であの街路樹と一緒に君の帰りを待ってるよ……
突然音が止まった。
サックスの彼は青年を見つめていた。
信じられないといった感じで。
そして青年に名前を聞いた。
「えっと……僕?
名前は…“ミノル”だよ。
君は?」
彼は自分で自分を指さした。
「俺か?
俺は“ライ”だ。」
「ライ君…」
変わった名前だとミノルは思った。
その後もミノルは歌い続け、ライはサックスを吹き続けた。
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