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気がつけば上の空で、時間が飛んでいることが多くなった。友達にもよくぼおっとしていると指摘される。自分でもそう思う。私は馬鹿になってしまった。
こんなに呆けてしまうなんて。
人を好きになったくらいで。
あの馬鹿に彼女ができたくらいで。
「また?何ぼっとしてんの?」
友達の声に我に返る。また呆けてしまっていた。
「……ん、あぁ、別に」
照れ隠しに笑おうとして、失敗した。最近上手く笑えないことがある。作り笑いすら、心が拒否する。
友達の視線から逃げるように、私は窓の外を眺めた。運動場でサッカーをしている男子たち辺りを眺めるふりをしたが、とくに意識は集中はせず、ただ視点がそこに定まっただけ。
友達もそれを見て、鼻で笑った。
「サッカーって面白いのかなー?しんどいだけでしょ」「……走ってないとやってらんないんじゃない?」「ああ、青春っぽいね、それ。苦悩や葛藤を汗で発散?」「苦行で苦悩を紛らわせるって感じ……現実逃避でしかないけど」「現実ねぇ……」「……現実だよ」「私ら今さ、青春っぽくない?」「……青春馬鹿」
なんとか私は私を保てている。
いつも通りのくだらないない会話も、なんとかできる。
。
鼓膜の片隅で微かな声を捕らえ、視線を向ける。すぐ真下、隣の校舎からこちらの校舎に向かって来ている男。へらへらと馬鹿な声を出しながら。
そして隣には、例の彼女。
「……」
視線が無意識に逃げる。
「ん……?あ、××じゃん。おーい!」
友達も気付き、窓から身を乗り出し手を振った。
私は顔を向けられなかった。隠れたかったくらいだ。
「なにー?バカップルー!?あはは!」
私は笑えない。
かわりに、吐き捨てるように呟く。
「……ほんとに。馬鹿」
「ねー、彼女も可哀相だよね、あんな馬鹿と付き合ってバカップル呼ばわりされてさー」
私の言葉に友達は的外れな解釈をして笑った。
私は笑えない。
「馬鹿と馬鹿がくっついたら大変なことになるから、ちょーどいーよ」「バカバカップルー?え?どこ行くの?」「トイレ」「私もー」「大」「……いってら」
トイレの個室に入り、崩れるようにうずくまった。
ため息をつくと、緊張のほぐれに体が震えた。
なんとか私を保てたかな。
いつまでこれに耐えられるかな。
まだ、意地は張れるかな。
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