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父や母も、ぼくに対する態度には、おかしなものがあった。
母は、「おまえは私のおとうとに似ている」ということばを、しきりとくちにした。
母は、ぼくの、食べものにおける好き嫌いさえ、知らないんじゃないだろうか。
母はいう。
「おとうとは、これを食べるのが好きだった」
そういう理由で、ぼくに食べものを、あてがおうとする。
ぼくが、自分の好みを主張しなかったわけではない。
しかし、なぜかそのことは、母の脳裏には、のこらない。
ちなみに、その母のおとうとなる人物は、ちゃんと生きている。
ぼくは、会ったこともある。
はっきりいって、ぜんぜん似ていない、とおもう。
父は、ごくたまに、遊びたくなったときだけその存在に気づくオモチャかなにかのように、ぼくを扱った。
自らの意志でうごき、働きかける‥こんなことが、ぼくに可能だと、父はおもっていただろうか。
父のしらないところでも、思惟と感情を継続してもちつづけ、それを結果として噴出させることができる、などと、おもっていただろうか?
いや、おもっていなかっただろう。
ぼくが、父の腹に、包丁をつきたてたときの、あのおどろきようをみれば、それはわかる。
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