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父がちゃんとぼくのことを理解していれば、深い諦観のすえの満足が、その顔に、うかんでいたはずだろうと、おもう。
けして、「なんで、こんなことが」なんてことばが、そのくちから出てくるはずは、ない。
そう、ぼくは父をころした。
母もころした。
きのうのことだ。
それから、クルマに乗って、家を出た。
いちんち、ぶらついてみて、自分がたいしておカネをもっていないことに気づいた。
家にとって返すと、まわりは人だかりがしていた。
クルマをおりて、人だかりのそばに、よってみる。
家の庭のまえには、規制線が張られ、警官があたりをうろついていた。
近くで、報道のひとなんだろうか?電話でやりとりしているらしい、声がする。
「‥じゃあ、おくさんの弟が確認したんだな?被害者はこの家の夫婦にまちがいない‥うん。うん‥それで、この家のむすこの所在がまだ確認されていない、と‥」
ぼくは、ゆっくりとうしろを向き、その場をはなれた。
クルマに乗り込んで、エンジンをスタートさせたとき、窓の外をコンコン、とたたくおとがした。
警官だ。あたりを警戒中だったのだろう。
ぼくは窓をおろして、
「いやだなあ、すぐにどけますよ」といった。
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