図書館の夜

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「立花さあん」 声がした。 私が車に乗り込もうとすると遠くの方から名前を呼ばれた。 動きを止める。 「どうしました」と男。 「ちょっと待って」 そう言って車から数歩離れ、耳を済ませた。衣服は制服に戻っていた。雪も止んでいた。 「立花さあん。帰りましょうよー」 もう一度聞こえた。薫の声だ。 「もう出発しちゃいますよ」と男の声。 振り向いて、頷くと、男は肩をすくめて扉は閉まり、車は行ってしまった。 星空は消え天井が現れた。白色の電気が灯り、迷路と化した本棚たちはいつもどおりの迷路みたいな本棚に戻っていた。 気付くと、海外の文芸作品が並べられている棚の前に立っていて、棚の三段目の右端に一冊分の隙間が空いていた。 私は手にしていた本をそこに戻し、体を反転させる。 本棚二つ分程先に薫が立っていた。彼女自身の鞄と、私のとを両手に持っていた。 「立花さん、なにやってるんですか。早く帰りましょうよ」 薫は大げさに足音をたてながら近づいてきて、すぐ近くまでくると、あっと声をあげた。 「立花さんってば埃まみれじゃないですか」
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