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私の祖父は何も信じない人だったから、当然神様も信じなかった。先祖代々のお墓にも入らず、解脱なんてしないもんね、と言って死体ごとどこかへ消えてしまったのだ。
祖父が亡くなったのはちょうど姉が小学校を卒業した日のことだったから、私が九歳になる直前のことで、わりとお爺ちゃん子だった私はとても悲しい気持ちになった事を今でも覚えているけれど、その感情以上に鮮明な光景がある。それは亡くなった翌日の昼間、縁側でのことだ。
座敷で昼寝をしていた私が目を覚ますと、障子が開いていて縁側が見えた。
縁側には祖母が一人で座っていた。脇には麦酒瓶が置いてあり、祖母は並々と注いだコップを片手にゲラゲラと笑っていたのだ。
私の場所からは祖母の背中しか見えなかったから、どんな表情をしていたのかはわからない。しかし祖母独特の低い笑い声が真夏の縁側に響き渡っていた。
なんだか嫌な気持ちがした私はくるっと背を向けて、目を閉じた。
じきに眠ってしまい、目が覚めたときには日は暮れていて、もう縁側に祖母の姿はなかった。
九歳の誕生日をすぎた頃から不思議なものを見るようになり、これまで様々な怪異に触れてきたけれど、いまだにあの場面が背筋を撫でる。
きっと祖父と麦酒を飲んでいたのだろう。
祖母も亡くなった今となっては真相は藪の中だが、今でも、ときどき、思い出す。
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