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猫は行ってしまった。
色々と思案しながらも、追い掛けるのは不気味で、私は家の方に向かった。
するとほどなくして人が現れた。
人は緑のチューリップ帽を被った、長身の若い男だった。
男は急いでいるふうだったが、私に気付き足を止める。帽子と長髪でわかりづらいが、意外と綺麗な顔立ち。隼のような顔をしていた。
「すみません。お嬢さん」と男。
「はい」と私の声は高い。
「奇妙な猫を見なかったですか?」
男の問いに私は、はっと思い、先ほど猫を目撃したほうを指差した。
男は「ありがとう」と言い残し立ち去ろうとする。彼もまた、逃げ出しちゃったんだろうか。
男の背中を見て、私は思い立ち、彼を呼び止めた。
彼は顔だけを向け、眉を上げた。
「あの猫は雌ですか?」
「うん」
「そうですか」
ありがとう、と私が言うと、男は不思議そうな顔をして走り去った。
彼を見送り、私は再び家に向かう。
なんだかひどく気分がいい。
不思議と楽しくなり、私は笑ってしまった。
可愛らしい雌猫と素敵な青年との出会いはなにかの暗示だろうか。
良い予感で溢れ、気分がいい。今日は飛んで帰ってしまおう。
私は地面を軽く蹴り、すっかり星の瞬いている夜空に飛び上がった。
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