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「失礼するよ」
医務室の扉を開き入っきたペイラー・サカキは、書類をまとめていた佐野にそう告げた。
「そう言うのは入る前に言ってくれませんかね」
「はは、良いじゃないか。数秒の差だよ」
まとめていた書類を机の隅に置いて、佐野はペイラーに向きなおる。
ペイラーはいつものように細眼で笑い、読心術に長ける佐野でさえその真意はわからなかった。
「それで、急にどうしたんですか?」
「いや、稲瀬君のことだよ。私も一応は彼らの上に立つ人間だからね。状況はしっかりと把握していないとならないのさ」
「本当なら別の研究を進めたいのだがね」と呟き、ペイラーは佐野の前に椅子を置き腰をおろした。
「ははっ。たしかに博士は人の管理とかには興味が全くなさそうですからね」
「いやはや、それが全くもってその通りなんだよ。こういう仕事は全てツバキ君に任せたいね」
実際にツバキに組織の管理を頼んだとしたら、直後に叱責が飛んでくるな。
同時にそう思ったのだろう。
ふたりはどちらともなく小さく苦笑した。
「稲瀬に関してですがね。いつもとからわず、今のところは安定していますよ」
そう言って佐野は机の引き出しから数枚の書類を取り出した。
「ただ、やはり自分の記憶とアラガミの記憶は混濁しているようです」
カウンセリングをずっと続けているが、辰嵩はいまだにアラガミの記憶を僕の記憶と言う。
その認識をペイラーが危惧していることを知っている佐野は、真剣な表情でペイラーを見据えた。
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