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「兄ちゃん、見てみて!! 今日、数学の小テストで、80点越えたんだよ!!」
「お前の喜びの価値が低いな」
「酷いっ」
若葉が何が嬉しいのか、そう言ってきたのを一刀両断してやれば、膝から落ちてうなだれた。
だからその背中を踏んでやる。
「う、ドS……」
「急にうなだれるから、踏んで欲しかったんじゃなかったのか?」
「そんな趣向はありません!!」
「で、たかが80点取ったくらいで、何をそんなに喜ぶことがある。全体の8割しかあってないんだろ? つまり残りの2割を間違えたことを、もっと恥じるべきものだと、お兄様は思うがな」
「俺にとっては、80点ってすごいことなんだからぁ!!」
そう叫ぶと若葉は床に顔を伏せて、微動だにしなくなったんだが……チッ、面倒なことに拗ねたな。
若葉の背中から足を退け、しゃがみ込んで髪を引っ張っても顔を上げやしない。
「若葉、顔を上げろ」
「…………」
「おい」
「…………」
「……チッ」
この俺を無視だと?
若葉の分際で?
そこまで拗ねるようなことか?
まぁ、若葉レベルとしては良くやった方だが、これで褒めては若葉は伸びなくなる。
家事はずば抜けて一級品だが他のことが駄目過ぎる若葉のためを思ってる、この兄心が伝わらないのか?
こんなに弟思いの人間はそういないだろ。
こんなにも可愛がっていると言うのに、若葉は少し気付くべきだな。
「……兄ちゃんは」
「あ?」
「兄ちゃんは、何でも出来るから……俺の頑張りがわからないんだ……」
「…………」
伏せながらのため聞こえてきた若葉の声はこもって聞きづらかったが、はっきり聞こえたそれは、何やら俺への劣等感だったようだ。
……全く、仕方がない奴だ。
「……確かに、お兄様は何でも普通に熟せるが」
「少しは謙遜してよ!?」
「何故、謙遜などしなければならない。出来ることは出来る。出来ないことはやる」
「……兄ちゃんは出来るかもしれないけど、俺は出来ないよ」
顔を上げた若葉は、眉を下げながら手の中にある紙を見てため息を吐く。
……若葉が拗ねると、後が面倒だな。
何て言っても、拗ねて家事をしなくなる。俺は他人のためにやろうと思わないし、親は使えん。
つまり困る。
適当にご機嫌でも取っておくか。
若葉は単純だからな。
……まぁ、そういうところが気に入ってるんだが。
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