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「ねぇ、最高の死に場所を探しに旅に出ない?」
そう彼女が僕に提案してきたのは何十年前のことであっただろう。
あれから僕達は旅を続けている。
「ここはどう?」
世界一美しいと言われている滝を見つめながらいつものように彼女は言う。
「駄目だ」
いつものように僕は答える。
「ここはどう?」
辺り一面に咲くひまわり畑で嬉しそうにはしゃぎながら彼女は叫ぶ。
「駄目だよ」
彼女に負けないくらい大声で僕も叫ぶ。
「ここはどう?」
エメラルドに輝く海を眺めながら、内緒話をするように僕の耳にしわくちゃの手を当てて彼女が囁く。
「駄目」
僕も彼女の耳に節くれだった手を当てて囁く。
ふふっと少女のように彼女は笑うと、悪戯っぽい目で僕を見つめる。
「いつになったら私を死なせてくれるの?」
「いつだろうね」
彼女の額にキスをして、僕は彼女のそっと手を握って歩き出した。
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