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突然の事だから仕方がない…と、周りの人達は言う。
あたしもただの事故ならば仕方がないと思えた。
だけど、これは事故じゃない。あたしは階段から落ちたのではなくて落とされたのだ。
あの、ステージの上にいるアリスによって。
「早紀。あたしちょっと外出てくる。」
あたしはこれ以上のうのうと演技をしているあの女を見ていたくなくて早紀にそう言って体育館を出た。
もちろん松葉づえを付きながら歩いた。
今は、この足と、あの女と、自分の愚鈍さがとてつもなく憎い。
「あたしが…アリスだったのに。」
あたしは青い空を見て呟いた。後から来るのは悔しさしかない。
でも、彼女の事を誰かに言うつもりはない。
なぜなら彼女の気持ちが分からないわけではないからだ。
この演劇部の伝統のアリスを演じたいのはみな同じだ。
あたしが彼女の立場なら、同じ事を必ずしなかったとは言い切れないかもしれない。
それほど、あたし達にとって『アリス』は大きなものだった。
あたしは1人空を見ながら部活が終わるのを待っていた。
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