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俺が幸運?
とても自分の人生に強力な運があるとは思えなかった。
確かに何度か死にそうになって回避したことはある。
しかし、助かったら助かったでクラスメートに「ドブ男」だの「五十肩男」だの言われる惨めな学校生活を送ったことを考えると本当に幸運だったのだろうかと思えてくる。
俺の考えを再び見透かしたのか、クマは盛大にため息を吐いた。
『これほど幸運な力を持っているのにそれに気づかない貴様は哀れだな。我が輩が利用した方がよっぽど有意義というものだ。』
そういうとクマは俺の目の前まで跳躍してきた。
『喜べ。お前のその持て余した幸運、我が輩が使ってやろう。満月の夜に迎えに行く。せいぜい人間界に別れを告げる準備でもしておくのだな。』
「えぇっ!?言っている意味がわからないんだけど!」
急に何を言い出すんだ。地獄って、死んだら行くところなんじゃないの?そんなルール違反なことしていいのか!?
俺は反論の言葉は色々あったのだが、目の前のクマはまるで魂が抜けたかのように横たわった。
いや、実際に抜けたのだろう。
今のクマは妹から貰った、ただ綿の入ったぬいぐるみに変化していた。
もしかして今まで見たことは夢だったんじゃないだろうか、と願いながらため息を吐いていると。
ガチャリ、と音がして部屋のドアが開き、妹が入ってきた。
……………あ。
そういえば襖の向こうって、妹の部屋と繋がってたんだっけ。
俺の顔がサァーーッと青ざめる。
妹も怒りによって顔が青くなり、俺を凝視しながら拳を握った。
「お兄ちゃん…何、してんの…?」
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