切ない。

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「起こしちゃった? ごめんなさい」 温もりをかき抱きながら謝ると、彼は少し笑ってかぶりを振った。 「普通に目が覚めた。 昨日まで4時起きだったからかな」 言いながら大あくび。 「寝たら? いまならまたすぐ寝られそうよ」 「仁美は?」 切り返される。 打って変わって真面目顔。 「……眠れないの?」 静かに問う声が、胸に痛い。 たったいままで願っていたことがよみがえって、あたしを傷つける。 叶うはずない。 叶うはずないのに。 願ったぶんだけ、余計に寂しさが増す。 余計に愛しさが増す。 「……目が覚めちゃっただけ。 大丈夫よ。 気にしないで寝て?」 「寝ない」 きっぱり言い切って、惟鷹はあたしを抱きしめた。 強い力。 抗えない。 彼の腕は、魔法みたいにあたしを縛る。 広い胸に耳を押し付けてみた。 ドク、ドク、ドク。 聴こえる。 惟鷹のまんなかの音。 愛おしくて堪らない音。 少しずつ速まるのを感じる。 それは、あたしの音も同じ。 どうしてこんなにドキドキするの。 初めてじゃないのに。 いつでも、会うたびに抱きしめてくれるのに。 初恋がずっと続いてるみたいに、跳ね回る心。 どこまでいっても変わらない。 何度抱きしめられても。 何度キスをしても。 何度身体を重ねても。 変わらない。 色褪せないの。 好きじゃ足りない。 大好きじゃ足りない。 愛してるじゃ足りない。 言葉じゃ足りないくらい、あなたを愛してる。
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