恋しい。

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「うん。 順調よ」 「嘘」 即座に否定されてしまうとは思わなかった。 佐知は鋭い。 さすが、付き合いが長いだけはある。 固まっていると、佐知は膝をすり合わせながらあたしの隣までやってきた。 ショートに切り落とした耳元で、彼氏に貰ったドロップ型のピアスが揺れる。 優しい輝き。 「あんた最近、控室での顔が暗い。 なんかあったでしょ」 顔が暗い。 人前では意識していたつもりだったけれど、やはり佐知には敵わない。 あたしはひとつ息を吐いて、気持ちを落ち着けた。 「なにもないよ。 ただ、クリスマスが嫌いなだけ。 毎年ひとりだもん」 「……そっか」 眉を下げる佐知を見るのが辛くて、あたしはうつむいた。 彼女に愚痴ってもしかたない。 なにも変わらない。 ただの、寂しがりやの我が儘。 「あんたがひとりってことは、惟鷹さんもひとりってことだよ? おあいこ」 「……わかってる。 もうお互い大人だし。 仕事は大事。 ……わかってる」 自分に言い聞かせる。 佐知に名前を出されただけで、彼の腕が恋しくなってしまう自分自身に。 「仕事、そんなに忙しいんだ?」 佐知がウーロン茶に手を伸ばしながら訊く。 「うん。 今度はイギリスに行くの」 「ついに海外進出?」 面食らったような彼女の大袈裟な表情に、少しだけ口許が緩んだ。
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