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真夜中に、ケータイが鳴った。
考え込むのが嫌で早めに眠りに就いていたあたしは、光るそれを慌てて手に取った。
惟鷹。
「はい」
『ごめん、寝てたよね』
「うん」
『いまからそっち行ってもいい?』
ささやくような惟鷹の声。
あたしは一気に目が覚めた。
時間を確かめる。
1:42
「……いいよ」
『よかった。
実はもう来てんの』
ブチッと通話は名残なく切られる。
来てる……?
寝ぼけた頭が順応する前に、玄関からカチャリと鍵の音。
あたしは飛び起きた。
扉の開閉の音。
鍵を閉める音。
控えめな足音。
「……惟鷹?」
暗闇のなかに、背の高い人影が飛び込んできた。
ガタン、となにかを床に置く音。
「夜ばいみたいなまねしてごめん。
どうしても会いたくて」
声だけ聴こえてくる。
惟鷹に間違いない。
顔が見えなくてドキドキがハンパない。
どうしても会いたいなんて台詞、心臓が悲鳴を上げてしまう。
パサ、と軽いなにかが床に落ちる音がしてすぐに、彼がベッドの脇に膝をついたのがわかった。
ようやく微かに浮かぶ、惟鷹の顔の輪郭。
表情までは見えない。
「仁美。
どこ……?」
彼にもあたしが見えないらしい。
空間を探る手が、あたしの長い髪に触れた。
「見つけた」
微かに笑いを含んだ声が、満足げにそうつぶやく。
鼓動がうるさい。
耳にガンガン鳴って痛い。
息ができない。
遠慮がちなてのひらが、あたしの髪を梳く。
不器用に頭をなで、そのまま頬に触れた。
「……手、冷たい」
ぽつりとつぶやいたあたしの空いた頬にも、探るようなてのひらが添う。
「仁美のほっぺはあったかいな」
お互いの顔もよく見えないくせに、吸い寄せられるように唇が触れ合った。
電流が走るように、全身をなにかが駆け抜ける。
それはきっと、愛しさだと思う。
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