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惟鷹は、いわゆる芸能人。
都築(つづき)タカシという名の俳優が、あたしの彼のもうひとつの顔。
スクープにより交際が発覚すると、彼は潔く交際宣言をして混乱を鎮めてくれた。
それからは度々、「交際はどうですか?」というインタビューに、「順調です」と笑顔で答える彼をテレビで見かける。
あたしの一番愛しいひと。
交際宣言により、世間の好感度は予期せず大幅アップ。
事務所の危惧したファン離れに陥ることもなく、むしろ以前よりも仕事量は増えたと思う。
それがあたしには、嬉しいような悲しいような。
……たぶん、悲しいほうが強い。
ない時間を削って会っていた時間がさらになくなるのだ。
滅多に会えなくなった。
同棲も考えた。
でも、彼が仕事をする上で動きやすいのは、彼のマンション。
あたしが仕事をする上で通勤しやすいのは、あたしのアパート。
この歳で転職はしたくないし、あたしはいまの仕事が好き。
辞めるのは、独身を卒業するときか、子供を産むとき。
そう決めている。
だから、お互いの仕事生活を尊重する意味で、同棲案は白紙になった。
寂しくなんかない。
悩んでなんかない。
必死に自己暗示。
仕事に打ち込むことで、靄を掻き消そうとしている哀れなあたし。
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