切ない。

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「……え?」 久しぶりに会った惟鷹が発した台詞に、あたしの脳はついていけない。 殺風景な惟鷹の部屋。 苦し紛れにあたしが買ったサンタクロースのライトが、なんだか物悲しく窓際を演出している。 その侘しい光景に目を奪われていたときだった。 「マネージャーがいきなりねじ込んだんだよ」 時期的な申し訳なさを、彼も自覚はしているらしい。 済まなそうな顔で続けるので、あたしは聞き間違いでないことを悟った。 「……イギリス」 僅かに耳慣れた国の名前。 彼の血の半分を産んだ場所。 あたしは惟鷹のグリーンアイズを見つめた。 出会った頃から変わらず、どこまでも澄んだ瞳。 それは珍しい色のせいだけではないことを、あたしはもう充分すぎるくらい知っている。 「うん、イギリス。 ごめん」 「……謝らないでよ。 仕事でしょ? オーディション頑張って」 いつかは来ると思ってた。 彼の風貌と流暢な英語。 この島国を飛び出すのも時間の問題だと思ってた。 でも。 「仁美。 ごめん。 泣かないで」 早過ぎる。 しかもどうして、一年で一番寂しい時期に。 「……泣いてないから」 声が震える。 こんなことでへこたれるような歳でもないのに。 バカみたい。 苦しい。 胸が苦しい。 惟鷹の両手がゆっくりと伸びてくる。 微かに濡れた頬に、温かなてのひらが触れた。
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