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信乃がトイレに籠もって
10日が過ぎようとしていた。
何度も話しかけては
信乃が生きていることを確認する。
食事は食べている。
だけども不安は募る。
「じゃあ、墓参りに行ってくる」
いつもの時間に
いつものように声をかけ
出かけた。
今の状態は俺にとってまさしく
シュレティンガ―の猫だった。
力ずくでも扉は開く。
でもそうしないのは…
墓参りがすんで、家に入る。
そして玄関の右奥に目をやる。
トイレの扉が開いていた。
「信乃?」
風が家の中を抜ける。
慌ててベランダに向かった。
案の定、そこには信乃がいた。
けれど、信乃の長かった髪はなく
代わりに地面に髪が散乱していた。
唖然としている俺に気づいたのか
信乃がこちらに振り返る。
そして微笑んだ。
「…心配かけたな。荘助」
10日ぶり、いや下手したら
二週間ぶりのまともな会話。
その表情から察するに
気持ちの整理が出来たらしい。
心なしか、随分とたくましく見えた。
「…髪……」
「ん?あぁ。もう約束の13だ。もう二度と女の格好はしない」
強い意志で紡がれる言葉。
目の前にいる信乃は
俺の知っている信乃じゃない気がして…
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