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「イヤになっちゃうよねー、ホント。なーんにもわかってないんだから」
屋上に、楽しそうな声が響く。
フェンスを乗り越えた先にあるのは、保健室に向かったはずのユウの姿。
お気に入りのいちごみるくキャンディを口に入れ、足を宙に投げ出してぷらぷらと揺らしている。
その額の傷は、もうとっくに塞がっていた。
顔を濡らしていた血も、綺麗に拭き取られている。
「所詮はただの凡人。どんなに足掻いたって、カンナと結ばれることはないのに」
哀れだねえ、とユウが笑った。
風が吹いて、その真っ赤な髪の毛が揺れる。
「キミだってそう思うでしょ?――駄犬くん」
ガシャン、瞬間的に体を捻ったユウが片手でフェンスを殴った。
その拳はフェンスを突き破り、ナオの左足スレスレのところで止まる。
「オレの背後を狙うなんて、キミには学習能力ってものがないのかな?」
「生憎、俺は諦めの悪い男なんでな」
「ハハッ。超ウザーイ」
ユウは口元を歪めると、スッと手を引っ込めた。
フェンスには、ぽっかりと穴が空いていた。
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