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「お前は、ずるい」
もう一度言って、詩音は通話を強制終了させた。
携帯電話を手に持ったまま、その場にうずくまる。
ずっと欲しかったものがあった。
ずっと、手に入れられなかったものがあった。
亮夜はそれを、もうすぐ手に入れるのだろう。
誰よりも傍にいて、誰よりも強く長く想い続けていたのに。
その先に待っていたのは、残酷な現実。
こんなことになるのなら、"幼なじみ"なんて関係、築かなければよかった。
最初から男として意識してもらえるような立ち位置にいればよかった。
そうしたら、神奈をあんな風に傷つけることも、自分がこんなに傷つくこともなかった。
けれど、その考えはきっと間違っている。
「…神奈」
詩音は涙声で想い人の名を呼んだ。
「……ごめん」
その言葉は、大通りの喧騒の中に消えていった。
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