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不意に、眠っていた君の目から涙がこぼれた。
「…茜?」
「いや…いや…行かないで…。」
君の白い手が空をかく。
僕はその手をそっと握った。
「大丈夫…僕はここだよ。どこにも行かない。」
「…止めて…いやぁ…リュウ…」
「…ごめん。茜…もうどこも行かない…だから、なかないで。」
僕はその手にそっと唇を押し当てた。
そして、涙にぬれた目じりにもそっと…。
ぬれたまつげが震えて、ゆっくりと君が目を開けた。
「…リュウ、」
「…ごめん、起こした?」
茜はぽろぽろと涙をこぼして、そしておもむろに僕にすがるように抱きついた。
「…どこも行かないで…、もう、どこも行っちゃいや…」
僕は君の背中をさすって
「ここにいるよ。大丈夫…もう、どこも行かないから…泣かないで…。」
君は僕の胸元に顔を押し付けながらつぶやいた。
「思い出したの…あの日のこと。」
ゆっくりと顔を上げる。
君は僕のほほを両手で包んで
「いつもみたいにキスをしてくれるんだと思ってたの。なのに…なのに…」
「あの日、君の記憶を消した…。」
「愛してるって言ってくれたその瞬間に、全部…リュウもきえっちゃったの…」
また君の瞳から涙があふれ出る。
僕はもう一度君を抱きしめて、
「…ごめん」
小さくささやいた。
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