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ベルデロードは元々片側1車線の並走道路だった所を、(上り線)を拡張新設した道路の為に、旧道には昔の名残でキャッツアイが残っている箇所がある。高速セクション最後のストレートには、スピード違反防止の為に今でもキャッツアイが当時のまま使われている。
正木のシルエイティーには18インチホイールを履かせていたが、高速でキャッツアイを踏んでホイールリムが曲がらなかったのは幸運と言って良いだろう。
だが、アクセルを抜いて挙動修正に専念しなければならず、追い付いたと思ったコペンには再び離される事になった。
シルエイティーがどの辺りでコペンに追い付くか、コペンのライン取りと加速するタイミングを、正木の精神状態を考慮した上でキャッツアイを踏ませる計算であった。
「クソが!」
普通のドライバーならばアライメントが狂い、バーストの危険がありスローダウンするところだが、頭に血が上った正木は挙動を抑え付けると加速した。
キャッツアイが有るからアウト側の車線のままで加速する。
しかし、それも計算の内であった。
可奈がイン側の車線を選んだのには理由がある。正木はそれを知らなかった。
高速セクション最後のストレートと言われているが、実際はストレートに見える程に緩やかな左カーブで、すり鉢状になっているのは第1ストレートと同じだが、此処は緩いバンク角がある。走り込んだ常連組は、タイムアタックの時にはアウト側は使わない。その理由を正木は身を持って知る事となる。
離されたコペンに追い付くべく3速に落として加速したが、リアタイヤはグリップを失いリアフェンダーがガードレールがにヒットし、その反動でリアがイン側に跳ね返る。正木は堪らずカウンターを当ててフルブレーキをかけた。
最終ストレートの緩いバンクは、ガードレールに被る程にツツジの木が生い茂り、一部はガードレールからはみ出す程だ。ツツジの根本には当然ながら土があり、車が通る度に砂が巻き上げられ道路に撒かれる。そして旧道のまま使われている場所だけに路面状態は悪い。アスファルトが痩せて窪んだ所に砂が溜まっていたり、染み出た排水が砂を載せて拡がっていたりする。フロントが砂に乗ればアンダーステアでアウト側のガードレールに張り付き、オーバーステアならリアがガードレールに当たる。しかも荷重が外側に偏るから不用意にアクセルを開けてトラクションが抜ければ、4駆でもなければ危険なのだ。
シルエイティーを立て直して前方を見れば、コペンがゴールの休憩所を走り過ぎたところだった。
勝負は着いた。
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