コペンでバトル

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可奈は頭の中で繰り返し店長の言葉を思い出していた。「大丈夫だよね?店長」コペンで勝つ為の策は、店長がコペンを運転し可奈が隣でレクチャーを受ける形で先程まで走り込んでいた。コペンでは経験した事がない速度域に驚いたが、車体が安定しているため怖くは無かった。 スタートのカウントダウンはもうじきだ。パワーで劣る可奈が発進して3秒後に正木がスタートするハンディアタック方式。隣に並ぶ正木のシルエイティーはアクセルを2回レーシングし、ブローオフバルブから鋭い炸裂音を発してスタートに備えていた。 隣に並んで正木は直ぐに可奈のコペンの変化に気付いた。フェンダーに被る程張り出した6JのホイールにSタイヤと、リアに着いたGTウイングにフロントのカナードだ。しかし正木は敢えて無視した。どれほどチューニングしたとてコペンはコペンだし、シルエイティーを超えるようなチューニングがされたとしたらプロドライバー並のテクニックを必要とするはず。可奈を見れば不安要素など無いに等しい。 「GO!!」 スターターの掛け声に、弾かれたようにコペンが跳び出した。 ベルデロードの下りは、前半のダウンヒルと後半のストレート&高速コーナーをいかに攻略するかがキモだ。 スタートしてまずは250メートルの下り坂ストレート。ストレート後の左コーナーはバンクがあってスピードを乗せ易いが、直ぐにダウンヒルコーナーの連続が待っているからスピードを乗せられない。可奈はアクセル全開でストレートを駆け降りた。コペンの車体の小ささとSタイヤを活かして、2車線を使いスピードを殺さずダウンヒルに向かう。正木が3秒後に跳び出した時には可奈のテールランプが左コーナーに吸い込まれたところだった。 「3秒のアドバンテージを、高速セクションまでのマージンにする!」可奈は店長から教わった、Sタイヤで走る場合のラインを正確になぞる。ダウンヒル最初のS字は出口が陸橋で、継ぎ目で跳ねるから注意。跳ねる車体をカナードとGTウイングが押さえ付ける。2番目のS字は中間点で陸橋があり継ぎ目が無い緩いRだから直線ラインで抜けられる。Sタイヤ用に仕立て直したサスペンションがしなやかに動く。可奈は左足ブレーキで荷重を掛けて車体を安定させ、ブーストと速度は落とさない。バックミラーにはまだ正木の姿は無い。 「ここまでは作戦通り」可奈は改めてナルディのステアリングを握り直した。
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