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可奈は高速セクション第1番のすり鉢ストレートを5速全開で駆け抜けてバックミラーを覗き、ストレート入口にシルエイティーのヘッドランプを確認して大きく息を吐いた。
「予想よりも遅いわね。それはそれで好都合だけど!」
高速セクションでは圧倒的にコペンが不利なのは当然だが、此処はサーキットではない。
すり鉢ストレートを抜けると緩やかな左カーブがあり周りは木々が生い茂り緑のトンネルのようだ。
しかし、夜走ると緑のトンネルは黒く狭い筒の中のような錯覚に陥るし、緩い丘になっているから先が見えずアクセルを全開にするのは勇気がいる。
丘を越えればブラインドの緩い左カーブがあり、その先には高速セクション最後のストレートが待っている。
可奈は最終ストレートに入る手前でバックミラーを確認した。
シルエイティーのヘッドライトが凄まじい勢いで迫って来る。
3秒のマージンは最大限に使い切った。それでもアドバンテージが残っているのは嬉しい誤算だ。作戦ではセンターラインを跨いでブロックして、最終ストレートへの布石にする予定だったのだ。
可奈はストレートのイン側にコペンを着けてコラム下の赤いボタンを押した。途端にブースト計が1.3キロまで上がる。
スクランブルブーストと同時に、リアトランクに仕込んだナイトロオキサイドシステムにより供給される笑気ガスが、スロットル手前のインジェクターから噴射され燃料混合比率を飛躍的に高める。
スピードメーターは今まさに振り切ろうとしていた。
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