【沫雪に変わるまで…】

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…12月26日… 一夜にして街はクリスマス色から脱色していた 洋風な趣の赤と緑はいつしか姿を隠して 和風な趣の色に姿を変えていた 夕方7時… 約束の場所に立っていた ショッピングモールの中庭のど真ん中に立っているゴールドクレストの木 その袂で立っていた 三角形のレンガ塀に囲まれ悠々と立つゴールドクレスト レンガの塀は待ち合わせや買い物客のベンチ代わりにもなっている その真ん中に陣取るゴールドクレストは毎年11月に入るとブルーとホワイトのイルミネーションを纏い 見る人全てを魅了していた その役目を終えたばかりの今日は暗闇の中でひっそりと立つだけのただの木にしか過ぎなかった 君に逢ったのは11年前のクリスマス この場所だったね あの日は雨が降っていておまけに風がやたらと強かった 突風に煽られた君の白い傘はそのまま宙に舞った 傘の裾が反対側を向けながら飛んでいき 僕は夢中で白い傘を追いかけた 追いついた時にはピンと張った傘の面影を無くしていたね 『あちゃ―これはダメだ、使い物にならん』 僕に追いついた君にそう言ったっけ 僕のブルーの傘を君に預けたんだよね 君の濡れた髪… まだ覚えているよ 『これ使って…』 『いえ、近くのコンビニで買いますから…』 『使って…』 15回の説得に根負けした君… 渋々僕の傘を受け取った 素敵な人だと… ときめいていた そして傘を返して貰う為の口実に紙に書いた僕のアドレスを君に渡した それから幾度とデートを重ねていった 僕にとって君とのデートはいつしか大切な君に変わっていったんだ 『イブの日はさぁ、初めて君に逢ったゴールドクレストの下で待ち合わせしない?』 『………』 『……どうしたの?』 『…ごめんなさい、その日は無理なんだ…』 『…そっか、じゃあ次の日に!』 『…次の日もダメなんだ…』 『…そっか、急だもんね じゃあ仕方ないね… 来年はまだ予定ないよね…じゃあ来年のイブに』 『ごめんなさい…きっと来年も無理…』 『なんで!意味がわからん!』 少し怒鳴ってしまった 『…ごめんなさい、ずっと隠してた… ずっと嘘をついてた… 結婚してるんです… 子供が一人居ます イブもクリスマスも家族で…』 『………』 君に逢って約一年… 頭の中… …真っ白だった
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