わたしが見たもの

3/3
前へ
/49ページ
次へ
 彼女と再会したのは予備校の帰りで、その日は体を温めて帰ろうと近くのコンビニで雑誌を読んでいた。  何だか外が騒がしく、大きな車から小さな車まで次々に目に飛び込んでくる異様な感じにわたしは、気になって店を出て自転車を漕いだ。  いつもは閑静な住宅地なのだが、今日だけは違うらしく、寒い夜にも拘わらずたくさんの野次馬が集まっており、警察官がポリエチレン製のテープで立ち入り禁止のテープを張って整備するほど辺りは騒然としていた。  次々にパトカーや救急車、消防車がわたしたちの前を通り過ぎて、いつもの閑静な住宅地は物々しい雰囲気に包まれていた。  わたしは自転車から降りて、押しながら人集りに近づいていくと、鼻が麻痺を起こしたかのような臭さに思わず吐き気を覚えた。ひどい臭いに顔をしかめながらも、わたしは人込みの中をかい潜って先の光景を目に焼き付けた。  そこには、――小西イネが全身炎に包まれて皮膚は爛れ落ち、それでも生命に固執する彼女は二階のベランダから唸るような声を出して助けを呼んでいた。  辺りは熱風を吹かせ、火の粉が飛び散り、十二月の寒さが嘘のような、首筋からは汗が滴り落ちる熱気で目眩を起こしそうになる。 彼女はわたしたちに懸命に助けを乞うが、どうすることもできず、ただじっと家が炎の力で崩壊するのを見ていることしかできなかった。  何とか火は消防士の人たちの手によって収まったが、小西イネは必死の救助も実らず、午前一時四分、搬送先の病院で息を引き取った。家は全焼で家族は全員、一階の居間にて焼死体で発見された。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加