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目を瞑ると、昨日の凄惨な場面が蘇ってきて今も鮮明に思い出される。
彼女の周りにだけ炎がまとわりついて食い尽そうとする。熱さのあまり、奇声を上げてもがき苦しむ表情が脳裏を過ぎる。
激しい音を立てて家は崩れ落ちているのに、彼女の声はしっかりと聞こえてくる。《助けて……助けて……》耳を塞いでも悲痛な訴えは関係なく、今尚も鼓膜を揺らし続ける。
着ていた服は炎で焼かれて、目に見えて皮膚が爛れ落ちていくのが分かり、髪の毛は焦げてしまい、小西イネの顔は原形さえ留めようとはしなかった。
いつものフルーティーな香りがするエンジェルハートの香水が懐かしい。彼女がよくつけていた香水だ。でも昨日、彼女から匂ってきたのは鼻がもげるほどの悪臭で、辺りは異常なほどの臭気にわたしを含めた野次馬は皆が顔をしかめて、この世の臭いとは思えない激臭を放っていた。人間の焼かれる臭いとはあんなにも臭かったのか、思い出すだけで鼻がおかしくなりそうだ。
生き地獄を目に入れてしまったわたしは、当分の間、あの光景に、あの声に、あの臭いに、悩まし続けるのだろう。
あんな死に方だけは、わたしは絶対に嫌だと思った。
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