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二人の着いた先は小さな小川だった。
こんなに小さな山でも水の湧き出る場所があったのか、とメイコが内心で驚いていると、
その先から自分を呼ぶ声が飛んできた。
「テト、こっちよ。」
何もあるようには見えないその場所に、テトは小首をかしげながら手招くメイコの元へ近寄る。
「ほら、これを見て。」
指差した先にあったのはきれいな紅い花だった。
「メイコ、これは?」
「九輪草っていうの。素敵でしょ?」
そういって笑うメイコを見て、テトはまさか、と眉をひそめる。
「ねぇ、こんな山中を歩いてまで君が見せたかったものって……、この花?」
その問に対して笑顔で頷く彼女を見てテトは思わず深くため息をはく。
「…メイコ、君ねぇ」
「だってこの花、すごく貴女に似てると思ったのよ。」
え、と言ってきょとんとするテトにメイコはふふ、と笑う。
「これはね、九輪草っていう花なの。この花、テトの髪と同じできれいな紅色をしてるでしょ?
それに貴女みたいに元気でいて、それで可憐な感じがして…。」
ね?と微笑みかけるメイコの言葉にテトは言葉をなくした。自信に向けられた言葉とは思えないそれに、
なんとも言えないむずがゆさを感じながら、テトはもう一度深くため息をはいた。
「………君はじつに馬鹿だな。」
「は……!?」
「僕はこんなに小さくない。それに、僕のどこが一体可憐なんだい?
メイコ、君は一度病院で目を見てもらう必要があるね。」
少し小馬鹿にした笑みを浮かべながら、テトは来た道を引き返しはじめた。
その後ろ姿をメイコがむっとしてにらみつけると、不意にテトがこちらを振り返った。
「何してるのメイコ。置いて帰るよ?」
そこでようやくメイコは自分が置いてかれそうになっていたことに気づく。
「あ……!待ってよテト!置いていくなんて酷いわ!!」
「あはは、やっぱり君は馬鹿だ。」
こののどかで平和で、いつも通りの日常が流れていく。
そんな暮らしがずっと続いて、お互いがずっと一緒にいられる。
あの時が来るまで、お互いそれを疑うことはなかった。
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