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色とりどりの証明に照らされる街。
空は暗く、深夜の時間帯だというのにそこは賑やかだ。
暗くない夜。
その無粋にわずかでも抵抗するかのように、空から白いものが降っている。
雪。
時節は12月中旬。
ホワイトクリスマスには少し早いかもしれないが、この時期の夜の雪というものはやはりムードを盛り上げる趣がある。
「……こう、ネオンが眩しくさえなければな」
もれる呟きは誰に拾われることもなく、呟いた男はただ、苦笑する。
これを時節の趣とするのが今の向きだ。それに異を唱えるはそれこそが無粋。
苦笑したまま空を見上げ、更に建物の向こうの広場に目を向けると、一際目立つ輝きがそこにある。
男は広場へと歩を進め、ゆっくりとその輝きを放つ大木を見上げる。
「ここだけは、毎年変わらんな。飾りも含め、昨年と全く同じだ」
ツリーを飾った職人の仕事に感心しながら、男は両腕を広げる。
赤と白の特徴的な服と三角の帽子を身につけた男。
年は若く白ひげはなく、髪も黒いが、そのいでだちは、聖なる夜にプレゼントを配るという聖人・サンタクロースのそれだ。
「全く、サンタは白ひげ白髪の老人だなんて定説を作ったのは、どこのどいつなんだろうかね」
ぼやきながら周りを見渡す男の体、三角の帽子、広げた腕。
降りしきる雪は、そのいずれにも積もることはなく。
街中の広場のツリーの下で、両腕を広げるサンタ。
その奇妙な光景にも、人の目が集まることはない。
「さて、今年も仕事を始めるとするか」
実体を持たず、人からも見えざる彼は、人間ではなかった。
正体は、その服装が物語るとおり。
彼はサンタクロース―――正確には、人々が描く『サンタの役』という殻を割り当てられてカタチを持った亡霊である。
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