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「そ、そうだ携帯で雪乃か瑞樹に電話して泊めてもらおう」
行くあてもなく歩きながら、鞄の中から携帯電話を漁る。
無い…無い…
「…ああ!!」
運が悪いことに、今日は携帯を家に忘れてきていたことに気づく。
勿論その携帯電話はあの燃え盛るアパートの中だ。
恨めしそうにアパートを見ると、また彼女はふらりふらりとおぼつかない足取りで歩きだした。
それから20分ほど歩くと、小春は川を渡る大きな鉄橋までやってきた。
足痛い…ただでさえライブ後で疲れてるのに…フカフカのベッドで寝たい…ああもう野宿でいいや。野宿しよう。うん。
半泣きになりながらまた歩き出すと、正面から見知った顔がやってきた。
「小春さん…?」
「さ、颯月さん!!!」
顔面蒼白で半べそ状態の小春を見て、ただごとではないと察した颯月が慌てて駆け寄ってくる。
颯月(サツキ)と呼ばれたこの男は、榊原颯月(サカキバラサツキ)。
24歳サラリーマン。
1年前からこの鉄橋で小春と顔見知りになり、時々夜ここで会うと世間話などをするようになった男だ。
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