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ザァァー…
「……!」
激しい雨の夜、腹が空いたと偶々立ち寄った甘味処で偶々出くわした見知った顔。
「……奇遇だな。」
いつもの蒼い鎧を脱ぎ捨て、淡い色の着流しに身を包む彼を見て
一瞬見とれてしまった。
「…何故、斯様な処へ…?」
「ha、俺がsweetsを堪能しちゃ悪ぃのかよ?」
戦場の…あの燃えたぎる様な雰囲気は全く無く、大人びていて清楚な風体を醸し出している。
「…そ、某…失礼仕る…」
「待てよ」
別の場所へ移ろうと思い、身を翻したその刹那。
腕を掴まれ、歩みを阻止されてしまった。
「座れよ、一緒に食おうぜ?」
「…で、では…遠慮なく…」
某は彼と机を挟んだ向かい側に腰を降ろし、団子を頼んだ。
「…にしても、本当奇遇だな。まさかアンタに、まさかこんな所で会うなんてよ。」
「…誠に。」
此処は奥州と甲斐の丁度真ん中に位置する山地。
驚きと緊張で、調子が上がらない。
「…どうしてテメェがこんな所にいやがる?そうゆう顔だな。」
「い、いや…」
「この辺に昔から世話になってる医者がいるから、診てもらいに来た。今は宿に帰る途中だ。」
小十郎には奥州の留守を頼んだ、そう彼は自ら話した。
「医者…どこかお体を悪くされたのでござるか?」
「いや、定期検診だ。」
アンタは?と訊き返され、思わず言葉が詰まる。
「某は…」
加賀の前田へ使者としてお館様に遣わされ、その帰り道で迷ったなどと…恥ずかしくて言える筈もなく…
「散歩でござる。」
「こんな雨の夜にか?」
「……う…」
案の定、直ぐに言い返された。
「アンタ、嘘吐くの下手だな。」
くすっと小さく笑う彼を直視できず、赤面して顔を伏せた。
「宿が無ぇなら、俺んとこ来るか?」
「い、いえ…そんな、悪うござる…」
「An?俺の厚意を蹴るってか?」
「…では、遠慮なく…」
半強制的に彼と宿を共にさせてもらう事にした。
共に甘味を手早く済ませ、早足で宿へ向かった。
「広い部屋だから、同じ部屋でいいだろ?」
某の答えを待つ気など皆無で、彼は某の前を慣れた様子で歩く。
「ま……伊達殿…」
「An?」
部屋につくと、彼は窓際に腰を降ろし某は部屋の隅に正座をした。
「何故…某に良くして下さるのでござるか…敵同士なのに…」
「ah―…」
そう問うと、何故か彼は顔を外に向けた。
「…気紛れだ」
何故顔を逸らすのか、某には理解できぬ。
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