現実世界 1 ある日の夜

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「それで…… 今日は使ったんですか?」 心配そうな顔した道子さんが私を見た。スマイルジャンキーの私は相変わらずの笑顔で淡々と対応した。 「大丈夫ですよ。今日は気軽にやりましたよ。あ、いや、軽い気持ちで診察した訳ではないですよ。あの能力はコントロール出来ますからね? はい」 そうですか…と道子さんはコーヒーを飲みつつしみじみとしていた。 私の名は千歳 奈々。市立あゆみ病院という所で精神科医をやっています。しかし私は精神科医になってまだ2年目の新米医者だ。見た目の私は普通の人間である。一つを除いては。 それは人の「記憶」を探る事が出来る能力を持っている。身体の部分に触ると、その人の記憶が私の中に入ってくる。人によって記憶は様々だが、楽しい記憶、悲しい記憶、最悪の場合は犯罪や死に関連した記憶まで出てくる。 この能力を知っている人は道子さん以外ではほぼいない。病院内だと後、院長ぐらいだ。 知ってる人は奇跡やら最強の能力やら言うが私にとってこんな能力はうんざりである。 子供の時からこの能力を持ち、いろんな人と触れる度にその人の記憶が私の頭に入ってくる。その時はなんて事の無い内容だと思っていたが、歳をとると物心が付き始め、内容を理解していき、悲惨な事になっていく。
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