第1話 lemon candy

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一階に着いてロビーに下り立つと、梅雨独特の湿気のこもった空気に思わず眉をしかめた。 ここ『フォレスト』には小さいながらも中庭がある。 数脚のベンチと芝生、それに青々と茂った木が植わるだけのそこは、社員の憩いの場でもあるようで、昼休みには女子社員が弁当を広げている姿をよく見る。 俺は昼休みに来ることはないが、残業の時には時々、煙草を吸いに来る。 煮詰まった時にここで煙草を吸うと気分転換になるのだ。 あとはアルコールを飲んだ時にしか吸わないから、俺が喫煙者だと知っているのはごく一部だろう。 中庭の壁にもたれて口に加えたそれに火を点けて吸い込めば、口の中に広がる苦味。 決して身体にいいものじゃないと知りながら、その煙を深く吸い込んだ。
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