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ふぅ、と紫煙を吐き出しながら企画について考えを巡らせていると、どこからか音がした。
「……」
辺りを見回しても音の出所がわからず、まぁいいか、と再び壁にもたれて視線を動かした時、それが視界に入った。
死角になる様な木の影で踞る人物。
薄暗い場所で、それがかろうじて女であることがわかった。
気分でも悪いのかと、驚かせないようにゆっくり芝生を踏む。
近づくにつれて、人物の輪郭や着ている物の色がはっきりと認識できた。
けれど、認識したのはそれだけではなかった。
「……お前」
俺の声に踞ったそいつの肩がピクリと跳ね、ゆっくりと顔を上げた。
「保田さん……っ」
驚いたように見開かれるでっかい目には、溢れることなく涙が留まり、それを堪える為に噛み締めたであろう唇が真っ赤になっている。
そこにいたのは、間違いなく市古桃花だった。
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