第1話 lemon candy

10/79
前へ
/335ページ
次へ
     ※※※※ 黙ったまま、踞った市古の横に立って吸いかけの煙草を口に運んだ。 横目で市古を見ると、明らかに落ち込んでますオーラを放っている。 なるほど、と納得した。 こいつはいつもどんなに怒られても、翌日にはしっかり切り替えて仕事に挑む。 最初は単純なだけだと思っていたが、今ようやくその理由がわかった。 市古はいつも、誰にも見つからないようこうやって一人で、落ち込みたいだけ落ち込んでいたのだろう。 それを引き摺らないよう、ここで全てを終わらせて家に帰っていたのか。 遠くから聞こえる喧騒が静かに響く空間に、カラン、そんな音がした。 「……飴?」 市古が手に持つピンクのビニール紙と、横顔の頬が不自然に膨らむのを見て、思わず声が出た。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13271人が本棚に入れています
本棚に追加