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俺を見上げた市古の目には、もう涙はなかった。
それに何故か安堵する自分がいる。
「はい。ストロベリーキャンディです」
「ストロベリーって……共食いじゃねーか」
自分でも間の抜けた返しをしてしまったと思った。
けれど市古は、無邪気な笑顔を見せる。
「友達にもよく言われました。……わたし、小さい時、泣き虫だったんです。ほんの些細なことでも泣いて……でもある日、母が言ったんです」
もともと童顔なのに、そんな話をする市古は、純粋に母親を慕う子供のような笑みを浮かべていた。
「桃花が大好きなストロベリーキャンディをあげるね。辛いときや泣きたい時に食べると元気になれるよって……それから何かある度に食べるようになっちゃいました」
もう大人なのに、と呟く市古の手の中で、飴の包み紙がカサカサと鳴る。
同時に俺の中の何かがざわめき始めた。
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