1961人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「何か、騎士っぽいよね」
「分かる」
面を取った瞬間に女子が2人、コソコソっと言った
騎士?
「何だソレ」
「何か、大沢<おおさわ>って騎士っぽい」
鎧の?
ドラクエに出てくる?
俺がやってるのは剣道だぞ
武士ではなく?
「そうそう、和風の」
いや、それを武士と言うんじゃなかろうか
「燻し銀って感じだよねぇ」と、ケラケラ笑った
あんまり女子と話すのが得意じゃない俺は、「あ、まぢで?」とぼんやり答えた
女子の頭の中はどうなってるのか…検討もつかん
高3の夏
先週、俺は部活を引退した
早々に訛りだした体を鍛えたくて
せっかく12年間剣道で鍛えた筋肉を、維持しておきたい気持ちもありまして
(誰に見せるわけでもないけど)
また、剣道場に来てしまった
「和風、和風」と目の前の2人が繰り返す
どうしたら良いのか分からなくて、取り合えず立ち上がる
日差しの強い校庭に、遠くに歩く人の姿が見えた
2人の内の1人が、思いついたように少し大きな声を出した
「王子様をお守りします、みたいな?」
もう1人がアハハと笑う
「似合う、似合う」
ちょっとウンザリした
日本だぞ
ここは
安全だぞ
この国は
何から守るっつーんだ
俺達3人の視線の先には
<王子様>がいた
白いシャツにニットのベストを着て
スラリと伸びた長い腕が、規則正しく揺れる
制服の黒いズボンが、キラキラと光っている
暑さなんてまるで感じていないみたいに、背筋をしっかり伸ばして歩いてる
何かを見据えたみたいに
奴ならカボチャパンツも見事に着こなすだろう
ちなみに俺はカボチャが嫌いだ
どうでも良いが
「「オージー!!」」
右隣りの2人が声を出した
その声に気付いて、<王子様>はこっちを向く
大きく手を振ってこちらに駆け寄ってきた
花でも咲かせそうな勢いで
「久しぶり!大沢、部活?」
爽やか100%
ポカリのCMに出れそうな勢いの笑顔で
「…あぁ」
俺は葬儀場のCMの勢いで
「もう体動かしたくなっちゃったみたい」
何だ、何だ
その告げ口みたいなのは
<王子様>はクスっと目を細めた
女子2人はそれに見とれる
「オージは?」
「オレはちょっとお勉強」
「「えらーい!」」
「でしょ?褒めて褒めて」
そんな冗談もさらりとこなす
まさに<王子様>だ
最初のコメントを投稿しよう!