理科室の王子様

2/7
1961人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「何か、騎士っぽいよね」 「分かる」 面を取った瞬間に女子が2人、コソコソっと言った 騎士? 「何だソレ」 「何か、大沢<おおさわ>って騎士っぽい」 鎧の? ドラクエに出てくる? 俺がやってるのは剣道だぞ 武士ではなく? 「そうそう、和風の」 いや、それを武士と言うんじゃなかろうか 「燻し銀って感じだよねぇ」と、ケラケラ笑った あんまり女子と話すのが得意じゃない俺は、「あ、まぢで?」とぼんやり答えた 女子の頭の中はどうなってるのか…検討もつかん 高3の夏 先週、俺は部活を引退した 早々に訛りだした体を鍛えたくて せっかく12年間剣道で鍛えた筋肉を、維持しておきたい気持ちもありまして (誰に見せるわけでもないけど) また、剣道場に来てしまった 「和風、和風」と目の前の2人が繰り返す どうしたら良いのか分からなくて、取り合えず立ち上がる 日差しの強い校庭に、遠くに歩く人の姿が見えた 2人の内の1人が、思いついたように少し大きな声を出した 「王子様をお守りします、みたいな?」 もう1人がアハハと笑う 「似合う、似合う」 ちょっとウンザリした 日本だぞ ここは 安全だぞ この国は 何から守るっつーんだ 俺達3人の視線の先には <王子様>がいた 白いシャツにニットのベストを着て スラリと伸びた長い腕が、規則正しく揺れる 制服の黒いズボンが、キラキラと光っている 暑さなんてまるで感じていないみたいに、背筋をしっかり伸ばして歩いてる 何かを見据えたみたいに 奴ならカボチャパンツも見事に着こなすだろう ちなみに俺はカボチャが嫌いだ どうでも良いが 「「オージー!!」」 右隣りの2人が声を出した その声に気付いて、<王子様>はこっちを向く 大きく手を振ってこちらに駆け寄ってきた 花でも咲かせそうな勢いで 「久しぶり!大沢、部活?」 爽やか100% ポカリのCMに出れそうな勢いの笑顔で 「…あぁ」 俺は葬儀場のCMの勢いで 「もう体動かしたくなっちゃったみたい」 何だ、何だ その告げ口みたいなのは <王子様>はクスっと目を細めた 女子2人はそれに見とれる 「オージは?」 「オレはちょっとお勉強」 「「えらーい!」」 「でしょ?褒めて褒めて」 そんな冗談もさらりとこなす まさに<王子様>だ
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!