はかないもの

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部屋に帰ってベッドに横になるとSNSの通知数の赤い丸があるのに気づいた。今日も永井先輩からメッセージが来ていた。 アプリを開くとおはよう。からはじまりおやすみ。に終わる。スタンプが面白いのが好感が持てた。 既読してもしなくてもスルーしてしまう日にさえも毎日連絡は続いた。 監視されているようだと思う気持ちと半々でタケルを失った自分を好きでいてくれている人に、どこか支えられている気持ちがあった。 支えがなければ実際折れそうでもあった。 確かに永井先輩はいい人だ。優しいし、大人だし、イケメンと言えなくもない。 でも… 「試しに付き合う…ねえ?」 わざと声に出して言ってみる。 アプリを閉じて、スマホをベッドの上に放り投げ、階下の母の夕飯の手伝いをしに行く。 母にはタケルに振られたことは言ってあった。お家がお隣りだから母もタケルのことはよく知っている。 知っているからこそ、余計残念がってくれた。 今夜のメニューはビーフストロガノフらしい。私はマッシュポテトを作ることにした。お芋をレンジにかけながら母と話をする。 「お母さん、なんか私のこと好きだって言う先輩がいるんだけどさぁ…。どうしたらいいかなぁ」 母はガールズトークが大好きだ。 「へぇ、どんな子?」 「サークルの先輩でね。いい人だよ。沢山連絡くれるしね。マメかも」 「あら、いいじゃない。猛君を忘れるために先輩と付き合ってみたら?」 母は時々ビックリするような事を言う。 熱くなったジャガイモの皮を2人で剥きながら、顔を見合わせる。 「なんかそれ先輩にかなり失礼かも」 「…先輩次第だよね。その子が亜由美をそこまで好きなら、誰かを忘れられない亜由美ごと受け止めてくれると思うよ」 なんとなく、母の言いたいことは解った。あたしがかつてそうだったから。タケルが誰を好きでもあたしはタケルが好きだった。 「あとは亜由美がその子を好きになれるかどうかよね」 その言葉の重みに、思わず深いため息が漏れた。 「急がなくていいんじゃない。亜由美は亜由美らしく、ね」 母は慰めるようにそう言ってくれた。 母がマッシュしてるボウルの中にすりおろしたチーズと生クリームをすこし、入れる。 「…うん。私らしく…だよね」 つまみ食いしたマッシュポテトはちょっと塩気が足りなくて、なんだか侘びしい味がした。
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