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入籍してからも、生活はこれといって変化は無かった。
相変わらず家政婦さんに来ていただいていたし、相変わらず別の寝室で寝ていた。
変わったことといえば、弘幸、美雨と呼びあうようになったことと、許可が降りれば弘幸の寝室で寄り添って寝ても構わないこと。
弘幸は性的不能者な訳では無いようだった。ベッドの下に見つけたDVD。
ブス専、デブ専と言えばいいのか、かなりマニアックな方向の嗜好をしているようだった。
敗北感にも似た感情に押しつぶされそうになる。
私じゃダメなんだ…。
「美雨には恋愛の自由を認める」
というのは、そういう意味だったのか。
私は西嶋のアパートに行くことにした。
もう限界だ。
西嶋に助けて欲しかった。
最初に訪ねたのは結婚して2日目の昼だった。
西嶋は私を見ると驚いた顔をした。
「もう会えないと思ってた…」
そう言った。
私はたまらず、
「あなたの絵を見たわ」
と言って西嶋にキスをした。
それだけで全て伝わると知っていた。
思い通り、事は進んだ。
西嶋は23歳という年齢の割に女の扱いに慣れていた。
そして、若さ故に回復が早かった。
情熱的で激しい行為ののち、帰宅する。家政婦さんが来る時間の前に。
私たちは飽きもせず、殆ど言葉を交わさずに、毎日毎日結ばれた。
関係を持って半年を過ぎる頃、西嶋はにわかに変わりだした。私のことを知りたくなったようだ。
「ねぇ、なんで此処に来たの?抱いて欲しかったのはわかったけど、なんで俺?」
「あなたの絵に欲情したからよ。いけない?」
「へぇ。それは光栄だ。俺の求愛が届いたってことだ」
「…そうよ、完全に奪われたの」
最近の西嶋はちょっと違う。
「清田さんに俺のこと言う?」
などと絡んできたり、
「今日はもうちょっと側にいてよ、ダメ?」
と甘えてきたり、
「俺のこといつか棄てるんだろ?」
と拗ねてみたり。
深入りし過ぎたのだ。いくら互いに都合が良くても深入りし過ぎるとロクな事にならない。
私は退き際を完全に誤った。西嶋はまだ弘幸の後ろ盾無しではやっていけない。だから弘幸から私を奪おうとはしない筈だ。
けれど、西嶋にもプライドもあれば所有欲もある。私は西嶋を少しずつ、でも確実に傷つけていることを知った。
私は何の前触れもなく、西嶋の家を訪ねるのを止めた。
お互いにとってそれが一番いいと思っていた。
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