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永井先輩からの毎日のメッセージはまだ続いていた。
よく、飽きないものだ。
毎回は返していないが、たまに律儀に返信をしてしまう自分にも呆れる。
けれど、先輩からの毎日の言葉や軽いちょっかいがタケルを失った亜由美の心の透き間を埋めてくれたこともまた、事実だった。
タケルに簡単に振られた私でも、取るに足りない人間ではないことを教えてくれた。
先輩はマメだ。
どこかの誰かとは違う。
先輩は優しい。
誰かみたいにからかったり茶化したりしない。
先輩は多分私を好きだ。
その、誰か、を忘れられないでいる私でも。
そこまで考えて亜由美は頭を抱えた。
先輩の長所を数えて何だというのだろう。結局、こうして先輩のことを考えてようとしてもタケルへの未練が邪魔をするというのに。
先輩に失礼だ、と思った。けれど、告白もされていないのに振ることなど出来なかった。
あの日、タケルに振られたみたいな気持ちを他の人に味わわせてはいけない。
とりあえず、告白して貰おう。そのほうが手っ取り早いし。そして諦めて貰おう。
【今度の日曜、遊園地に行きませんか】
という先輩のお誘いに、約2時間遅れで、
わーいと書いてあるウサギのスタンプを返す。
先輩のお誘いをいつも断ってきたから、余程驚いたのか先輩から早速通話がかかってきた。
「ホントにいいの?二人きりなんだけど…」
開口一番先輩は聞く。嬉しそうな声に心が痛む。
「いいですよ。遊園地、好きだし」
「なんだ、それなら早く遊園地に誘えばよかったよ。ありがとう。ビックリして電話してなんかゴメン。…なんて言ったらいいか…嬉しいよ。詳細はまたメッセージするね」
先輩は本当に嬉しそうだ。何だか悪いことをしているみたいでツラい。
「はいはーい。よろしくデス。」
なるべく明るい声で電話を切る。
とりあえず楽しもう。告られるとも限らないし。友達と出掛けると思えばいい。
【先輩に遊園地に誘われた。行くことにした】
と簡潔に麻衣に短く報告する。
2分も経たないうちに麻衣から
【どういう心境の変化!?】
というメッセージと
報告よろしくと書いてあるスタンプのあとに、冷やかす感じのスタンプがきた。
麻衣は新しい恋を応援してくれようとしてるのかもしれない。
でも、あたしは………振るために誘いに応じるなんて…。あたし最低だな、と思った。
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