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弘幸にねだって、自分の寝室に清田春臣の「イスタンブールの緑」のレプリカを置いて貰った。
いわば安定剤だった。
西嶋との関係を断って、弘幸は抱いてくれる気配はなく、私の精神は崩壊寸前だった。
縋れるものがなかった。
かつてのパトロンに会いに行くのは躊躇われた。弘幸と最初に約束したことだから。
全てのパトロンと切る、と。
明津と別れるのは本当に大変だった。弘幸に間に入ってもらい、沢山金を積んで貰うしか方法がなかった。
別れを切り出した時の明津の怒り狂った顔は理性を完全に失ったものだった。
私はその場で身ぐるみ剥がされ、荒縄で身動きが取れない程にキツく縛り上げられた。
そうしてそのまま飲まず食わずで放置された。
お仕置きだと言った明津の厭らしく勝ち誇った顔。
明津のもとから2日帰らない私を心配した弘幸が駆けつけ、救出してくれた時には私は鞭と縄の跡で全身が真っ赤に腫れ上がっていた。
男のひとの支配欲とは怖いものだ。
でもその明津のもとへ行こうかと一瞬でも考えてしまう自分を恥じた。
そうして、また、西嶋の身体をも恋しく思った。
けれど、もう二度と西嶋と結ばれてはならないことも解っていた。
私が本当に欲しいのは弘幸の全てだった。
どうやらその気持ちが叶いそうもないことも、やはり、もうすっかり解っていた。
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