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弘幸の部屋に泊まることが許される夜。
私は弘幸が寝入った頃を見計らって体に触れてみる。起こさないように慎重に。
起きない様子を確認したら、少し強く抱きしめてみる。
目からは自然に涙が溢れてくる。
あとからあとから。
際限なく。
こんなに傍にいるのに、弘幸は遠い。
こんなに施しを与えてくれる弘幸が、自分に触れようとしないことが悲しい。
時々、うっかり目を覚まさせてしまうと、抱きつく私を見て弘幸は本当に辛そうな顔をする。
また苦しめてしまった。また困らせてしまった。
そう思い、私もすぐさま弘幸から体を離す。
「ごめんなさい」
そう言って、自らの寝室に戻る。泣き顔のまま。
「イスタンブールの緑」は私を慰めてくれる。いつも。どんな私でも。優しく。
「お前はお前のままでいいんだよ」
若くして亡くなった、大好きだった母の声が聞こえた気がした。
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