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弘幸からは相変わらず仕事を貰っていた。
ここ2週間は遊園地でマスコットガールをしているところだ。
弘幸の関わりのある財団が保有する遊園地の開園50周年の記念の催事だ。マスコットキャラクターとお客様と共に観覧車の前で写真に映るだけの仕事。
微笑んでいれば良いだけの仕事は楽だ。そして人目に触れることは今の私の何よりの望みだった。視られる喜び。容姿一つで人を喜ばせられることは単純に嬉しく、励みになった。
女性としての自信を失いかけていたから。
左手薬指に光る指輪だけが唯一の証だった。
弘幸の妻である証。
シンプルなプラチナのごく細いリング。余計な装飾は施さなかった。
これを選んだ時、とても美雨らしいね、と弘幸も言った。
弘幸の長く細い指にもシンプルなリングは非常に良く似合った。
時々そっと触れて自分を鼓舞する。ひんやりと冷たいリングをなぞって安心を得る。
大丈夫、大丈夫だ。
私はどこにいても何をしていても弘幸の妻なのだから。
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