苦悩

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午後二時。遅いお昼休みを戴いてベンチに腰掛けて、今朝家政婦さんが作ってくれたベーグルのサンドイッチを食べていた。 突然、すごい勢いで見知らぬ少女が近づいてきた。二十歳くらいの可愛らしい女の子だ。彼氏らしい男の子が少し遠くで苦笑いをし見守っている。荷物を持たされて。 血相を変えて近づいてきた彼女に、私は全く見覚えがなかった。 「こんな所で何してるんですか?」 彼女の質問は攻撃的で理解できない。写真が撮れないことを怒っているのだろうか? 「ええと…、只今お昼休憩を戴いております」 「は?なに言ってるんですか?意味わかんない。そうじゃなくて、なんであなたが此処にいるのか聞いてるんです」 私は益々混乱する。意味がわからないのはこちらのほうだ。 「こちらで仕事させて戴いておりますが…。お客様何かご用でございますか?」 「仕事って……、タケルは?タケルを捨てたの?あなたいつもタケルの家に来てたじゃない。なんで今此処にいるの?」 「タケル…とおっしゃいますと?」 思わず彼女を見守る彼を見る。彼がタケルだろうか。しかし彼にも見覚えはない。 「西嶋猛。知らないとでも言うつもり?私は何度もこの目であなたを見てる。あなたタケルがモデルにした人でしょ?」 西嶋猛。あの西嶋か。 フルネームで聞いてようやく合点がいく。 あの時の私たちに名前なんてものはどうでも良かった。 「…ええ。たしかに西嶋さんのモデルならさせていただきました。でも、どうしてー?」 あなたがそれを知っているの?と聞きたかった。 「どうして?バカにしてる。タケルをたぶらかして楽しかったですか?あなたのせいでタケルはー。」 そう言うと彼女は言葉に詰まった。 そして唐突に、 「タケルを愛していますか?」 と、まっすぐ目を見て聞いてきた。意志の強そうな瞳だ。 「西嶋さんを?…いいえ。けど…、たぶらかしてなんかいないわ。お付き合いはしていたけど、もう別れたの」 少女の気迫に、私は正直に答えることしか出来なかった。今は、何の関係もないと言いたかった。 その答えを聞いて、少女はとても悲しい顔をした。 「タケルを捨てたんですね。…タケルは本気だったのに」 その表情で全てを悟った。彼女こそが西嶋猛を愛しているのだと。西嶋にとても近い存在なのだと。だからこそ私を知っていたのだと。
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