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「平助ー!」
振り返ると、幼馴染の喜兵衛が走ってきた。
奴は18になり外で修業し、戻ってきて茉莉ちゃんの着物を仕立てた。
そして俺は、奴が茉莉ちゃんに惚れていることも知っていた。
だが、もちろん彼女は生贄であり、それが叶うことはない。
だからせめてと最高の材料を使い、立派な着物を仕立て上げたのだ。
今では後を継いで店を切り盛りしている。
これから産まれる俺の子供の産着も、喜兵衛に作ってもらうつもりだ。
なのに、ただでさえ忙しいはずの喜兵衛がなぜここへ?
喜兵衛は走って来たからか顔色があまり良くなかった。
「…大丈夫か?」
喜兵衛は肩で息をしながら、辛そうに声を出した。
「……お前の嫁さんの美弥子ちゃん。さっき産気づいたって……。」
…
…この時、俺の娘の名前が決まった。
『茉莉』だ…。
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