「永久の詩を唄おう」⇔《軍人》ハ言ッタ。違和感ガノコッタ。

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「永久の詩を唄おう」⇔《軍人》ハ言ッタ。違和感ガノコッタ。

焼け残った文化住宅。 両脇を軒に囲まれた、奥まった場所。 そこが、彼女が指定した場所だった。 傍らに立つ異形に声をかけると、さも当然といった鋼鉄の返事が返ってきた。 「貴女をこちらへ届けるのが、わたしの役目。中まで付き合えとは命を受けておりません」 そして、一言、「もし帰ってきたとき、わたしが居なくともお帰りになって結構です」と呟いた。 わたしは、若干の失望を覚えつつ、扉を軽く叩いた。 反応はない。 もう一度叩く。 まさか、留守なのだろうか……。 「はい、」 かちりと鍵を開ける音。 きしきしと扉が開き、背の高い女が顔を覗かせた。 170センチはあるだろうか。 軽く伏せられた睫毛が異様に長かった。 女は、一瞬きょとんと目をしばたかせたが、すぐさま紅を引いた唇を動かした。 「どなたですか」 低めの、涼やかな声だ。 「あ……あの、わたし……」 なんと言えばいい。 そういえばわたしは、 "らしゃめんの名前すら知らないのだ" 「め……綿羊館から参りました」 知っている単語をうわ言のように呟いた。 女は目を丸くし、しばし思案していたが、ただぽつりと「お方様の知り合いか」と零す。 「それにしては、見ない顔だ」 「あ、わ、わたしは依頼の方で」 ようやく合点がいったのか、にこりと笑みを零す。 整った顔つきの美人だ。 「そうか。お方様が頼って来るなんて珍しいとは思ったけど……で、お方様はわたしに何と?」 何? 何と言われた? "伝えればよい"と。 「あ……あの、」 切れ長の瞳が細められ、女は踵を返した。 「まぁ、いいや。上がって行きなさいな。粗茶しか出せないけどね」  
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