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長い冬が去りし春・・・庭先の桜が咲き乱れる 青空の下、小鳥達が舞い 爽やかな風が男の頬を撫でている…ここは越後の春日城。
『見事に咲き誇りましたなぁ~殿?』
その声に振り向き、微笑む男。
『ああ、兼続か。酒を持ってきてくれないかい。桜を愛でたい気分なんだ。』
桜の幹を、手で撫でながら所望するものは またお酒……
『今日は そんな悠長な事をしている場合ではござらんですぞ!』
少し、まくし立てるように言う兼続に溜息混じりの男。
『また、あの話かい?私は 正室は迎えないよ。』
『しかし!このままでは、上杉の跡目を継ぐ者が…』
……兼続をいつも困らせる、この男こそ 上杉 謙信。
己を毘沙門天の生まれ変わりだと言う、少々 掴み所のない男…
『ねぇ、兼続?私が 正室を迎えない本当の理由を知りたいかい?』
『(ふぅ~と溜息が漏れる)また、私は毘沙門天の生まれ変わりだ…とか おっしゃるのでござるか?』
『ハハハ、そうだったね。そう言って 断り続けているもんね。』
『本日は きちんと聞いてもらいまするぞ!! 』
謙信は 桜の木を愛おしむように 見上げながら フッと微笑む…
『そうだよね………あれから、ずいぶん時が過ぎたし………兼続、何故私が妻を娶らないのか知りたいかい?』
『無論、伺いたいですなぁ』
あまり、関心がなさ気に応える兼続に、遠くを見る謙信。
『………私の心にはね、決まった女子がいるんだよ…すまないね。』
それを聞いた兼続は 満面の笑みで謙信に駆け寄り、直ぐさま興奮状態になる!
『そ、それは誠でございますかッ?!さすれば一刻も早う、お迎えせねばなりますまいッ!!殿、酒をお持ちいたしまするぞ!なんと、めでたい!』
バタバタ走り去る足音。嬉しさ感じる兼続を よそに謙信は 憂いある眼差しで、桜を眺め続けていた…
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