Prologue

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兼続が謙信の下に 酒の用意をして戻ると、謙信は庭先の桜の木の下で 桜を見上げている。 桜を愛おしむ儚げなその姿に、兼続は 本当に我が殿は 神なのかもしれないと思うほど 美しい光景だった… 兼続の気配を感じて、謙信が声をかける。 『ああ、兼続 ありがとう。酒は 時にいろいろ忘れさせてくれる。私には 酒があれば 何もいらないよ。』 そう言って、微笑む。 『殿? 心に決めたお方は どなた様にございますか?まさか、お迎えできぬ訳があるのでございますか?』 謙信は 酒を口にすると、ぽつりぽつりと 話し始める… 『桜の様にね、美しい姫だった……この桜はね、私の愛しい檀なんだよ。』 『檀…姫…?』 この時代に、いつも出家したいだの、戦は嫌いだの、酒を笊のように毎晩飲む謙信の真の姿を 瞬時で理解できた気がする兼続。 ハラハラと舞い散る桜が盃の中に入ると 謙信はフッと笑みを浮かべて 話し始めたのだった…
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