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「いってぇ」
呻いてから、一体何にぶつかったんだろうと顔を上げて、驚いた。
涙目の瞳をまん丸に見開く。
そこに、金髪の男がいた。
それだけじゃない。
ただの真っ暗闇だった景色に変化が起こっていた。
明らかに異国風の、窓の小さな煉瓦造りの建物がずらりと通りを挟んで並び、でこぼことしたやけに舗装の悪いコンクリートの道路に、見たこともないような大きな車がぽつぽつと停まっていた。
通りはごみだらけで汚く、裏寂れたような雰囲気もあり、少し薄れたものの未だ取り巻く暗闇も手伝ってなんだかゴーストタウンのようだった。
「どこみてんだ。気をつけ……って、おお!?」
香乃斗にぶつかられた金髪の男が、明らかに苛立ったような声を上げて振り返り、泣いている香乃斗を見て今度は驚きの声を上げた。
「や、そこまで脅してねえだろ。なのに何で泣いてんだ?」
くしゃくしゃの金髪の男は、さらに髪をくしゃくしゃにかき混ぜながら何かを呟く。けれど英語がわからない香乃斗には何を言っているのかわからない。
(……誰? というか、ここはどこ?)
少なくとも「人」のいる空間に出られたことの安堵はあった。
けれど見知らぬ景色の中に一人投げ出された孤独と、見下ろす金髪の男が投げかけてくる理解しえぬ言葉からわき上がる不安が複雑に混じり合い、香乃斗の身体は委縮し、再び目頭が熱くなりだした。
「うっ……ふ、えっ……くっ……」
抑えきれず、嗚咽が零れた。
くしゃり、と、泣き顔が歪む。
「って、ええ!? 俺何もしてねえだろ!? なのに激しく泣き出すって、なんでだ!?」
慌てたのは男の方だった。ますます焦ったように香乃斗に話しかけてくる。
「もしかしてどこか怪我したのか? 大丈夫か?」
「?」
けれどそもそも言葉がわからないので、香乃斗は泣き顔のまま首をかしげた。
「やっべ。言葉通じてねえのか。チャイニーズか? ジャパニーズか?」
「……え? ジャパ? ぐすっ……」
Japaneseという聞き慣れた単語にぴくり、と香乃斗が見上げて反応すると、男はほっとしたように呟いた。
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