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「ジャパニーズか。なら……」
「フレッド、何やってんだ」
すると、そんなくしゃくしゃの金髪頭の男に声がかかる。
フレッドと呼ばれた男は、まるで天の助け、と言うようにその声の方を振り返った。
「アレク!」
新たに現れたのは、黒髪と黒い瞳の青年だった。
(日本人!?)
と、香乃斗は期待するが、新たに現れた青年は眉根をしかめると英語でフレッドにくってかかった。
「って、泣いてる……? ――あれだけ女性には優しくしろって言ってるのに、あんたは~」
「誤解だ!」
「何が誤解だよ。泣いてるじゃないか」
「俺だってよくわからないんだよ! 突然ぶつかってきて、振り返った時には泣いてたんだ。英語通じないから観光客の迷子かなんかだろ」
「迷子ぉ?」
「ジャパニーズって単語に反応したから日本人かもしれない。お前日本語話せるだろ」
「まあ、一応ね」
「よし。このガキは任せた! 俺は引き続き捜索に戻る!」
そう言うと、くしゃくしゃ金髪頭のフレッドはどこかに賭け去っていった。
「あっ、の……っく……だ、れ……?」
鼻をすすり、涙を拭って、香乃斗は必死で声を絞り出す。
喉が痛いし、英語で話す二人の間でどんな会話が交わされたのかもわからなかったが、それよりも目の前の青年は誰だろうという興味と関心の方が香乃斗には強く、赤く腫れたウサギのような目を向けた。
ため息をついた青年が、こちらを見る。
青年と目があって思わずびくり、と肩を震わせてしまうと、青年は香乃斗を安心させようとしてか、にっこりと笑った。
どこか人好きのする笑顔に少しだけ緊張が抜ける。
青年はそんな香乃斗の様子にほっとしたように小さく息をつくと、しゃがみ込んで香乃斗に目線をあわせると、こほん、と咳払いをした。
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